日常に織り交ざる声―松山「俳句甲子園」―

松山市は文学の街。正岡子規生誕の地、夏目漱石『坊っちゃん』の舞台、隣の銀天街商店街には多数の生徒の俳句、市内各所に作品を投函する「俳句ポスト」、ちょうど大街道を松山城側に抜けると「坂の上の雲ミュージアム」。そうした背景をもった地で「俳句甲子園」が開始された。

ただし、大街道商店街が舞台となるのは一日目の予選だけであって、決勝戦は「松山市総合コミュニティセンター」へと舞台を移す。大街道に比べると「祭」としての側面ではなく、「コンテスト」としての側面が非常に強くなる。決してそれ自体は否定されるものではないが、やはり観客や店員、パチンコ屋の騒音、車の音、会話、風や差し込む光など商店街という生活の場所に響く「五・七・五」の方が若々しい声と表現には馴染みがいいように思える。そこには、単なる文学(芸術)としての俳句や、解釈としての俳句ではないものが存在している。気負わない芸術としては、私がフィールドとしている「詩のボクシング」と「俳句甲子園」は共通している。「詩」と「俳句」というジャンルは違えど、前者は1997年、後者は1998年という同時期に大会が開始されているのも奇妙なことだ。「俳句」や「詩」を芸術として高めるのではなく、われわれの些細な日常の中に「詩」や「俳句」を発見する。その魅力が「読む場」を生み、「聞く場」を生み出しているのではないだろうか。
撮影・文: 尾添 侑太(関西学院大学社会学研究科)